この20年ほど、医療保険での訪問マッサージ・鍼灸を業とする中で、たくさんの患者さんとの出会いとお別れがあり「生きること」「死ぬこと」について幾度も考えさせられました。
常に心がけていきたいのは本当に患者様の役に立っているのか、たとえ微力であっても、患者様が充実した人生を送るためのお手伝いが出来ているか、という事です。
人は生まれれば必ずいつか死にます。 その後生まれ変わるとしても、少なくとも“その人”としての人生は1度きりです。単に一日でも長く生きれば良いという訳ではなく、いかにその人らしい満足いく人生を送っていただくか。そのための治療でなければなりません。
特に最近は、2千年以上の歴史を持ち、世界の約200か国の中で一番古い国であるこの日本という国がいかに素晴らしい国であるかを改めて意識するようになり、またそれを支えてきたご高齢者に対する尊敬の念が強まってきています。若くして障害を持って活躍されている患者様も共に日本を支える大事なメンバーです。
自分の知識、技術、情熱を、そのために役立てられる事が、この仕事の大きなやりがいです。
治療というのは奇跡を起こすものではなく、人間の持つ自然治癒力を引き出す行為なので、患者様の良くなろうとする努力が不可欠で「施術者と患者様の共同作業」と言われますが本当にその通りだと思います。
理屈通りにいくこともあればいかないこともありますが、その場合には体質や年齢・性別・生活習慣…様々な点を考慮・相談させていただきながらよりよいと思われる手段を選択し良い結果を目指していきます
施術者と患者様の善のエネルギーが結びついて、痛みが軽減したり不調から解放される時、患者様は本当に良い笑顔を見せて下さいます。この時の喜びは他の何ものにも代えられません。
中には当然、末期のがんや老衰による死を迎えた患者様にもこれまで何度もご縁がありました。数十年にわたって動き続け、様々な経験を刻んできた肉体が今まさに一切の活動をやめようとしている。 そしてその瞬間に向かう患者様を見守るご家族…ある種の緊張感を伴う特殊な空間です。
ところが一歩外に出ればそんなことはお構いなしにいつも通りの営みが街中で行われている。 そのギャップに戸惑い、時には平常心でいるために精神的スタミナを消耗することもありました。
そんな中でもあたかも先に生きる者として周囲に手本を示すかのように最期の瞬間まで尊厳を持って生き切る姿を拝見してデス・エデュケーションの分野で言われる“死は決して敗北ではない”ということ、 そして、死期に向かう人間心理の先駆的研究者であるキューブラー・ロスの“人は最後まで成長していける存在である”、という主張が実感とともに想起されます。
この瞬間を大事にする賢明さについて改めて教えて頂き、また先へ進んでいくことへの希望、大きな勇気をいただいております。 名を残そうと残すまいと人間って本当にすごいな…と思います。
自分の技術や知識でその人らしい人生を送るお手伝いが出来れば幸甚です。